BAKE(ベイク)

UPDATE : 2017-04-07 07:30:39

「SUGOIインタビュー」
タイなどのASEAN諸国への進出や、インバウンド事業に取り組む企業。新たなビジネスチャンスを求めて海外進出した企業人たちに、進出にともなう苦労や喜びを徹底インタビュー!


#2 「株式会社BAKE(ベイク)」
焼きたてチーズタルト専門の「BAKE CHEESE TART」や、シュークリームの店「クロッカンシュー ザクザク」、アップルパイの店「RINGO」。どれも焼き立てのお菓子を提供するスタイルで、行列が絶えない人気店だ。運営しているのは(株)BAKE。いま、最も注目を浴びている菓子店のひとつである。
(株)BAKEは、北海道にある菓子店の長男・長沼真太郎氏が、父親の店から独立して、2013年にたった一人ではじめた会社だ。2014年2月には、主力ブランドとなる「BAKE CHEESE TART (以下BAKE)」を新宿に出店。その後、国内で店舗を増やしながら、創業2年目の2015年8月、香港で海外出店を果たした。さらに同年11月にはタイに進出、現在もシンガポール、台湾、上海など、精力的に海外に出店を続けている。今回、海外進出の中心人物である、海外事業部本部長 印牧正貴(かねまき まさたか)さんに、話を伺った。
 
 ■間に合わない!? タイ1号店のオープン …順調に物事が進まない、タイの事情とは?
 ■「愛」ありきのビジネス …(株)BAKE代表の思いが導いた、海外進出の「糸口」とは?
 ■(株)BAKEの未来 …設立から3年。BAKEのさらなる展開とは?



―――2015年11月、バンコク中心部の人気ショッピングモールに、タイ1号店として「BAKE CHEESE TARTバンコク エムクォーティア店」を開店させて以来、タイでは御社のチーズタルトが大変な人気だと聞いています。
 
【印牧正貴氏 以下敬称略】
はい、おかげさまで店舗運営は順調です。タイではタルトを1個80バーツで販売しています。日本の価値でいうと、およそ800円。決して安くはないのですが、多くの方が購入してくださっています。現在、タイでは4店舗(常設店2店舗、ポップアップ店2店舗)を展開。1年間で約300万個のタルトを販売しているタイは、海外でも重要な国のひとつと考えています。



■間に合わない!? タイ1号店のオープン
―――店舗の運営は、オープン当初から円滑に進んでいたのでしょうか?
【印牧】実はタイ1号店のオープン時は、トラブルの連続でした。オープンの数日前、施工中の店舗に足を運んだ時、「これは…大変だ」と感じました。私が訪ねた時点で、全体の35%ほどしか着手できておらず、オープンに間に合わないのは明らかでした。
また、店舗のデザイン性を重要視している私たちは、一般的な施工以上の費用をかけ、高いクオリティのものに仕上げています。今回も、施工会社と何度も図面をやりとりして進めていました。ところが、依頼したものとは全く異なるデザインに進んでおり、良い意味でいえば「タイ仕様」になっていたのです。
 
私たちには、台湾ですでに海外店舗の経験と実績があり、多少のトラブルは想定していましたが、この「感覚の違い」や「スピード感の違い」に触れて、初めて「タイはこういう国なのか…」と実感しました。

そこからが決断の連続でした。すべてを中止し、全部撤収。その時点では、新しい施工業者となる会社の見立てはありませんでしたが、このまま修正を入れて仕上げても、納得できる形になるとは思えませんでした。


方策に悩んでいたところ、偶然にもタイのパートナー会社の親族に、施工業者がいることが分かりました。その方の力を借りると同時に、日本にいる店舗デザイナーや、弊社の店舗開発チームの仲間たちに、至急タイに応援に来るように依頼したのです。その時、タイへ向かう飛行機に1席だけ空席がありました。しかも料金は42万円相当。高額でしたが迷ってはいられません。すぐに仲間にタイへ来てもらい、オープン準備を進めることが重要でした。まず店舗デザイナーに来てもらい、到着早々、現場監督として指揮してもらいました。その日から4日間、私も含めたスタッフと新しい施工業者、みんなで必死に作業を進め、店舗を仕上げたのです。短期間の施工で、100%満足しているわけではありませんが、出来栄えに納得しています。


(写真:施工中のバンコク・エムクォーティア店)

―――その後、予定通りにタイ1号店はオープンできたのでしょうか?
【印牧】いえ、トラブルはほかにもありました。オープンに備えてタルト12万個分を日本から船便で輸送していたのですが、予定日になっても手元に届かなかったのです。原因は、タイの港に侵入者が入ったことにありました。そのため、テロ対策として保税区にあった荷物すべてが検査対象になってしまったのです。一週間は荷物が動かないと知った時は、本当に青ざめました。ですが、届かない荷物を待っても仕方がありません。すぐにタルトを製造している北海道の工場へ連絡を入れて、手配できる限りのタルトを空輸で送ってもらうことにしました。
 
―――コストがかかったのでは?
【印牧】施工のやり直しや、予定していたオープニングセレモニーのキャンセル、タルト空輸…と、想定外の出来事が続き、膨大なコストがかかりました。ですが「出店する以上、一番良い形にまとめよう」と決め、妥協はせずに必死に進めました。1号店を無事オープンさせて、お客様の行列を見た時にはとても充実感がありました。


(写真:オープン後のバンコク・エムクォーティア店)


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 ■「愛」ありきのビジネス
―――2013年に代表の長沼真太郎氏が一人で始めたお菓子のビジネス。
会社設立からわずか2年で海外に出店したが、海外進出は当初から視野に入れていた?
【印牧】はい、そもそも代表の長沼が、「BAKE」のビジネスを始めたきっかけは海外にあります。長沼は、北海道にある洋菓子店「きのとや」の長男で、数年前まで父親の会社に勤めていました。5年ほど前にシンガポールでの催事に参加した際、「きのとや」の商品としてチーズタルトを持っていったそうです。初めは通常通り、焼いて冷ましたものを冷蔵用のショーケースの中に入れて販売していました。ある時、ショーケース内が完売したため、オーブンから出してすぐの、焼きたてのタルトを売り場まで持っていったそうです。すると、においや「焼きたてです、まだ温かいですよ」という声、鉄板に乗ったままといった「臨場感」に惹かれ、たくさんの人が集まってきたそうです。それを見て長沼は「同じ商品でも、売り方を変えればお客様の反応が変わる。これだ!」と実感しました。それが一種類の商品を、焼きたての一番良い状態で提供する、いまの「BAKE」の販売スタイルの原型になったのです。同時に、このシンガポールでの成功事例から、「おいしいチーズタルトを北海道だけ、日本国内だけにとどまらせず、世界中に広めていきたい」と考えるようになったそうです。
 
北海道の新千歳空港の店舗を任されていた長沼(代表)は、帰国後に店舗でも焼きたてのチーズタルトの提供を開始しました。その際、チーズタルトに入っていたブルーベリーをやめるなど、様々な試行錯誤を繰り返したそうです。なかでもこだわったのはサイズ。新千歳空港にはチーズを使った人気のスイーツが数多くありますが、多くの店舗が採用している「切り分けて食べる」チーズスイーツとは一線を画し、小さなサイズにしました。買ってすぐに気軽に食べることができる、手ごろなサイズにこだわったのです。また、持ち帰って冷蔵や冷凍することで、焼き立てのチーズタルトの食感とは異なる旨みが味わえたのも人気の理由です。タルトは評判を呼び「空港職員が選ぶお土産スイーツNo.1」に選ばれて、北海道で知られるスイーツの1つになることができたのです。
 
その後、2014年2月に「BAKE CHEESE TART新宿店」をオープンさせて、一定の成功こそしましたが、それでもまだまだ国内で十分に知られているとは言えません。




私自身が(株)BAKEへ入社したのは、新宿店のオープン後でした。もともと飲食業が好きだった私は、他社で海外店舗の設立や運営の経験を積んでいました。日本の食が持つ「パワー(力)」は信頼していましたが、個人的には甘いものに関しては苦手で、食べる機会はほとんどありませんでした。しかし、面接で「おかしは人を笑顔にしてくれる 食べ物の中で一番人を笑顔にするのはおかしだ」と話し「人を幸せにするおかしを世界中に広めたい」という長沼(代表)の夢を聞いた時、「ここで一緒に働きたい」と思うようになったのです。その、世界中に笑顔を広める「夢」を実現するために、私がこれまで培ってきた力(経験)を活かせそうだ、と感じたのです。
 
そもそも、当時BAKEは国内に1~2店舗ほどしかなく、国内店舗の体制を整えていく時期でした。それにも関わらず、代表は海外進出のための人を雇おうとしていました。通常であれば、海外進出ともなると、都内で数十店舗運営して、しっかりとブランディングした後に始めるところだと思います。そこを「新宿も成功した、次は海外に踏み出そう!」と思い切った考えができたのが、長沼(代表)のフットワークの軽さだと感じています。しかも、代表自身には海外出店の経験がなかったのです。「大変そうだ」と感じるよりも「楽しそうだな」という気持ちが強く湧きました。実際、海外に関することすべてを任せてくれたので、やりがいがあります。
 
―――海外の中でも、タイに出店した理由は?
【印牧】私が入社した時には、タイや台湾、韓国とのパートナー契約は済んでいました。BAKEの新宿店ができて間もなく、最初に声をかけてくれたのは、タイの方だったそうです。「とても美味しかった。この会社は絶対大きくなる。絶対に流行るから、自国でお店を出させてほしい」と。実は、商品のファンになってくれた方たちから、パートナー契約のお問い合わせをいただくことが多いのです。しかもローカライズは一切行わず「日本で食べた感動を、そのまま自国に持ち帰りたい」と、すべて日本と同じ味、同じ品質(焼き立てを提供し、多く販売するための作り置きはしない)での提供を申し出てくれています。「1ブランド1商品」が弊社のこだわりであり、企業戦略です。ただ、味覚や食習慣が異なる国で出店する際に、甘い味に変えたり、チョコレート味を作る…など、ローカライズせずに海外で受け入れられているのは、「未経験の味でも受け入れやすい」スイーツ独自のことかもしれません。また、裕福層・中間層の拡大から、訪日するタイ人も増えています。「日本のBAKE」の味を知るタイ人が増える中、「本場と同じ味」というブランディングは、ローカライズよりも重要な要素になっており、それが人気を呼んでいると感じています。
 
―――タイでの出店は、台湾に続き海外2例目。
最初に(株)BAKEに契約を持ちかけたにも関わらず、なぜ、タイ出店は後になったのでしょう?
【印牧】台湾のパートナー会社は実績のある企業。そのため契約後の進展もスムーズに進みました。一方のタイは、声をかけてくださった当初、タイに会社もなかったのです。会社の設立や、プロダクトマネジャーを募集する段階からのスタートでした。また、物件探しも困難を極めました。当時は、タイの一般の方にはまだBAKEの評判は届いておらず、なかなか良いデベロッパーに出会えなかったことが理由でした。タイでのオープンまでに時間はかかりましたが、弊社も、もともとは3年前に代表1人からスタートした会社です。こちらも成長途中ですから、タイのパートナー会社の方々と、同じ会社の仲間のように、一緒に歩んでいくことができました。大手企業と比較すると、リソースでは不足する点も多いのですが、「お金儲け優先」の繋がりではなく「良いものを一番いい形で売りたい」という、愛のある部分で共感しあえたのが良かったのだと思います。

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 ■BAKEの未来
 
―――1年間で300万個が販売されるほど、タイで大人気のBAKEのチーズタルト。今年(2016年)、タイ国際航空で、特別な日に乗客に提供するスイーツに選ばれた。その経緯は…?
【印牧】パートナー会社の方の奥様が、長年タイ国際航空に勤めており、その方を通してタイ国際航空の方々もチーズタルトのファンになってくださったそうです。また、BAKEのチーズタルトが王室に献上され、王女さまたちが召し上がってくださったという話も聞きます。今回スイーツを提供した8月12日は、シリキット王妃の誕生日でした。タイの人々にとって、尊敬する王妃の誕生日は「母の日」として祝う重要な日。タイ国際航空では長年にわたり、この日を祝うために乗客に、伝統ある名高いスイーツを提供しているそうです。今回、弊社のチーズタルトを選んでくれたのです。お話しを頂いたのは誕生日の直前でしたが、「BAKEのチーズタルトを提供したい」という強いご要望を受けてタイ国際航空に私が出向き、どのようにすれば国内線全線に一万個を提供できるかを話し合いました。その足で日本へ戻り、スタッフみんなを説得して、プロジェクトを進めたのです。短期間の準備で多忙を極めましたが、チーズタルトにオフィシャルな評価をいただけた、良い体験でした。



―――「タイ進出」という点で、成功したと言えるBAKE。その秘けつは?
【印牧】「こだわりぬいた結果」にあると思います。施工で妥協しなかったことや、海外だからと味を変えたり、デベロッパーに言われたからとチョコ味を作ることはしなかったこと。妥協するほうが簡単だった面もありますが、1ブランド1商品をしっかり作る。日本人のいい意味でのこだわりを貫いた結果が、今だと思います。
 
―――「BAKE」5年後の展開は?
【印牧】ひとつには「BAKE」の名を、さらにブランド化したいと思っています。チーズタルトのほか、シュークリームの「クロッカンシュー ザクザク」や、アップルパイの「RINGO」もグローバルに展開していき、ブランド数もさらに増やしたい。
 
また、店舗展開以外の、違う形態でもスイーツを提供したいと考えています。例えば、スーパーで買ったおかしや、ファストフードのメニューとしてBAKEの商品があるかもしれない。そのように、美味しいスイーツを、皆が予想していなかった様々な形で提供することで、世界中の人たちを楽しませていきたいと思っています。設立3年でここまでやってきたので、5年先、決して手の届かない夢ではないと信じています。



 
OUR interview

リンガーハット

UPDATE : 2017-03-01 08:59:24